日本的 中庭のススメ
地中海の夏
中庭(パティオ)様式は地中海沿岸で発達した建築様式です。
石造りの外観は要塞のように堅牢で閉塞的なデザインですが、
その内部はすべての居室が中庭を中心に
展開する明るく開放的なデザインになっています。
石造りの建物が並ぶ細い路地から、
一歩中庭に足を踏み入れると、
内外の様相の違いに驚かされます。
なぜ地中海沿岸は中庭型住居が発達したのでしょう。
歴史的な要因はもちろんですが、
独特の気候風土も大きな要因のようです。
南欧のように高温低湿度の乾燥した夏の場合、
日影が涼しさをもたらしてくれます。
吹き抜けた中庭を天蓋(テント)で覆うと、
即席のクーリングルームが完成します。
日差しの強い屋外は40℃を超えていますが、
天蓋で覆われた中庭は薄手の上着が欲しくなるほどの涼しさです。
閉じた中庭は乾燥地帯ならではのアイデアです。
パティオをリビングルーム代わりにする生活スタイルも納得できます。
中庭(パティオ)は、プライバシーとセキュリティーと
室内気候のバランスから生まれた、
優れた建築様式だったのですね。
日本の夏
プライバシーとセキュリティーの両立は、現代生活に不可欠の要素ですが
日本の気候風土は地中海とは大分異なります。
地中海沿岸の高温低湿度に対して、日本の夏は高温多湿です。
古くから夏の蒸し暑さをいかにして凌ぐかが、住まいのテーマになってきました。
兼好法師が徒然草に記した通り「家造りは夏を旨とすべし」のようです。
中庭を設計する場合も、通風とプライバシーの両立を図りつつ、涼を求める工夫が必要です。
風みちに配慮した中庭型住宅の当社施工例をいくつかご紹介します。
実例その1
厚塗り外壁はフランスの田舎にあるような、
何か懐かしい風情を醸しています。
平面は中庭を囲うようにコの字型のプランになっています。
解放されている一辺に風通しとプライバシーを両立する木製の縦格子を設えました。
中庭の中央に植えた落葉樹によって、夏は涼しい緑陰が、
冬は暖かい日差しが室内に降り注ぎます。
実例その2
ガレージ付きの中庭型住宅です。
塀と一体になった外壁で交通量の多い道路からの視線を遮りつつ、
壁をくりぬいた縦スリットで風通しを確保しました。
更に縦スリットの中にオリジナルデザインのロートアイアンを設えて、
セキュリティーと通風の両立を図りました。
自然の風を上手に利用して、快適な中庭生活を楽しみましょう。